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限界を超えると起こる未来

国連で初めての環境問題の会議を行うきっかけとなったレポート「成長の限界」(Limit of growth)が1972年に発表され、30年後に情報を更新し改訂版が2002年出版されました。「成長の限界 人類の選択」その後20年が経ち、今日ようやく自動車業界を中心に温暖化対策が具体的に始まろうとしています。

今日は2002年の改訂版の情報を紹介し、現在の地球の状況とその後に関して、皆さんと考えてみたいと思います。なお、この書籍は米国マサチューセッツ工科大学のグループが科学的な情報をもとにコンピューターでシステム思考*(システムダイナミックス)の理論を用いて、私たち人類のとる可能性のある選択を想定し複数のシナリオをシミュレーションしたものです。(*システム思考に関しては、こちらの記事(システム思考と新型コロナウイルス)で説明しています。)

以前の記事で、エコロジカルフットプリントの紹介をしました。私たちの経済活動、生活がどの程度地球に負担をかけているのかを示す指標です。既に地球の限界を超え、地球が1.7個分必要なほど負担をかけており、毎年増加傾向にあります。

この「成長の限界」の改訂版では、エコロジカルフットプリントも使い、新たなコンピュータシミュレーションをしています。

上の図のシナリオ(Scenario2)は、私たちの現在の経済活動、生活に抜本的な変化がなく、1972年当時の状況から資源の採掘技術のみ改善された場合のシミュレーションです。この場合2040年には世界の人口が80憶人になる想定です。現在の実際の世界人口が77憶人ですので、現実に近いシナリオです。さらなる人口増加にともない消費も拡大することを想定しています。

グラフの点線はエコロジカルフットプリントで、実線で示される「福祉指数」は国連の人間開発指数(国連開発計画リンク)を参考としており、保健、教育、所得から私たちの「生活の豊かさ」を示す指標です。

まず注目したいのが、私たちの「生活の豊かさ」と地球への負荷(エコフット)がオーバーシュートしていることです。(オレンジで示した部分)このオバーシュートとは限界を超えてさらに上昇することです。新型コロナウイルスの感染拡大時にも、感染者数が病院の病床数を超えて増え続ける際に使われているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

次に注目すべき点は、エコフットと福祉指数が上昇の後に急激に下降していることです。これはコントロールできずに「崩壊」したことを示しています。同じく新型コロナウイルスの例では、医療崩壊と呼ばれる、増えすぎた数の患者を診ることができず、医療機関の機能が停止した状態のことです。

では、具体的にエコフットが上昇し続けたことで、私たちの主な活動要因がどのように関連して、「生活の豊かさ」を失わせるのか下の同じシナリオの5つの活動要因の関係を示すグラフを見てみましょう。

まず、私たちの産業算出量(物質的経済)がオーバーシュート(行き過ぎ)し、資源の枯渇により崩壊し急激に下降します。これに合わせて、増えすぎた人口とその人口を養う食糧も資源が枯渇することで、急激に減少します。公害は産業産出量のグラフから数十年遅れて上昇し続けています。これも人口と食料の急減の原因となっています。そして、すべての要因が崩壊しています。これは、新型コロナウイルスの例にように病院ではなく、経済、食料生産の機能が停止したことを示しています。

この本の改訂版が発刊されてから20年経ちますが、この20年間に抜本的な対策は打たれていませんので、残念ながらこのシナリオに近い傾向で私たちの地球は推移していることをまず事実としてこの受け入れがたい現状を認めることが、今後の対応を考える上での最初のステップとなります。